昨年(2010)10/5から10/7にかけて、焼岳から西穂、奥穂、北穂、槍と歩いた記録です。
二日目は西穂山荘(6:16出発)から歩き始め、間ノ岳や天狗岳やジャンダルムを越えて奥穂高岳を歩いて、北穂高岳(17:04着)に至りました。
西穂高岳から奥穂高岳の間が岩場の連続で足よりも手の方を多く使う登山道と知ったのは、実際に歩いてからでした。それまでは国土地理院の1/25000の地図に登山道を表す点線があるので、普通の登山道とばかり思っていました。
もっとも、実際に歩いて恐怖や危険を感じる箇所はなく、ただ垂直に近い岸壁の上り下りが連続して、時間が経過しても直線距離が稼げないのがじれったく感じました。
日程は、参考になりやすいように小さなピークも書いてあります。
山荘間は所要時間も書きました。
日程
- 06:16 西穂山荘を出発
- 06:31 西穂丸山
- 07:10 西穂独標
- 08:15 西穂高岳(西穂山荘から1時間59分)
- 09:30 間ノ岳
- 10:11 天狗岳
- 10:42 岳沢分岐
- 13:02 奥穂山頂
- 13:55 穂高岳山荘(西穂山荘から7時間39分)
- 14:17 涸沢岳
- 16:14 北穂南陵分岐
- 16:29 北穂高小屋(穂高岳山荘から2時間34分)
- 17:04 北穂テント場
二日目(2010/10/06)
総時間10時間48分
西穂高岳
日の出前に起きて出発の準備を始めたのですが、山荘に宿泊している人に比べるとテントなどをしまう分だけ出発の時間が遅くなってしまいました。
さすがに標高25000mを越えているので、テントの外も内も凍り付いてしまいました。
氷を落とさないと背負ったときに重いだろうとムキになって払うのですが、なかなか氷は落ちてくれません。
適当なところで妥協をしてテントを畳むことにしました。
先に歩いている人がいると、負けん気が起きてくるので不思議なものです。
もともと歩くのは速いほうではないので、先にあるく人の歩速の方が早ければ決して追いつけないのですが。
前を歩いている人たちは、全員奥穂高岳を目指しているものとばかり思っていたのですが、話をしてみると全員が西穂高岳に登ったら引き返すと言うことでした。
西穂の山頂で休憩を取っていると、「これからあそこを登るのですか」と奥穂高岳を指さして尋ねられました。その人の話では西穂-奥穂の間はガイドを雇って歩かないと、とても一人では歩けない場所という事でした。
歩いてしまってからではどうと言うことはないのですが、もし歩く前に標高差が数十メートルの岩場が連続する崖の道と言うことを知っていたら、わたしは歩かなかったかもしれません。一定以上のスキルを持っている人にとっては過剰な情報はむしろ旅をつまらなくするという見本のような話です。
道は西穂独標を越えたあたりから岩場の崖登りとなり始めます。
西穂高岳までは一般の登山者でも上れるように地図に書かれていますが、実際には上れても下りは厳しい道で、岩場の経験のない初心者だけではちょっと無理のような気がします。
昨日と違って森林限界を越えているので視界を遮る樹木はなく、見晴らしは最高の稜線歩きです。
この日も早朝から昼くらいまでは晴れていたので、焼岳から乗鞍岳にかけて南に延びる山、北の奥穂から槍ヶ岳の連峰、西の笠ヶ岳の膨大な山稜、東の霞沢岳の山塊が一望に見て取れます。
幻想的だったのは霧に包まれた上高地。まるで堰止め湖のように霧が深く垂れ込めていました。
もともとは山峡の川沿いの小盆地を意味する神河内(上河内)の文字が当てられていたそうですが、上高地もこれはこれでなかなかうまい当て字と思います。でも、こうして霧に包まれいる景観を見ていると、神河内の文字がもっともふさわしいようにも思われます。
西穂山荘のテント場 |
朝焼けに浮かぶ笠ヶ岳。 |
朝焼けを受ける焼岳(前)と乗鞍岳(後)。 |
西穂高岳への道。 |
西穂丸山。 |
朝霧に包まれる上高地。 |
鎖場のある西穂独標までの道。 |
雲海の上の青空。 |
西保へ向かう岩場。 |
ピラミッドピーク。 |
岩場。 |
西穂高岳の山頂が見えてきました。 |
西穂高岳の山頂。背景は笠ヶ岳。 |
左奥が槍ヶ岳、中が奥穂高岳のピーク。 |
奥穂高岳と前穂高岳。 |
前穂高岳と吊り尾根。 |
霞沢岳と上高地。 |
焼岳と乗鞍岳。 |
笠ヶ岳。 |
黒部五郎岳から三俣蓮華岳の山稜。 |
西穂の先の岩峰。 |
西穂・奥穂の岩場の道
ジャンダルムという文字を国土地理院の1/25000の地図上で見たときには意味がわからず何だろうと思っていました。
戻ってから広辞苑で調べてみると、フランス語で衛兵の事で、ここから転じて寄り添うものを指し、例えば穂高岳のジャンダルムと用例にも出ていました。
早い話が山頂脇にそびえる岩のピークと言うことのようです。
西穂高岳を過ぎると本格的な岩場となり、地図上の岩場とはこういう事かと妙なことに関心をしながら進みます。
じれったいのは垂直に近い岩の壁を上り下りするので、地図上の直線距離が時間をかけても稼げないことです。
間ノ岳、天狗岳と、国土地理院の地図には掲載されていない小ピークを過ぎてもいっこうに奥穂高岳が近づいてきません。
ここの岸壁の道はよく考えてもうけられていて、遠目から見ているととても上れそうもない岩の壁も、その下まで行くと、岸壁を巻いて裏側に回り込み、岩と岩の亀裂にそってルートがもうけられていたりします。
一枚岩で足場が見あたらず、かといって巻けるような左右の空間もないような場合にだけ、鎖場があります。
記憶では鎖場は4カ所。あとは岩の突起や切れるに手の指をかけ、つま先をかけて登ったり下ったりします。
三点姿勢がとれれば危険はないのですが、岸壁をよじ登っている途中で指先が疲れてきて、岩に寄りかかって休憩を取ったりと、それなりの工夫が必要でした。
ジャンダルムと言われる岩の峰のあたりでは深い雲のなかで先が皆目見えません。
雲の中からひょっこり現れたのが奥穂高岳の山頂で、岩の崖2つ、3つ登ってたどり着くと、山頂からこちらを見ている人が多くいたようで、「あの崖を登ってきたのはあなたですか」と何人かに声をかけられました。
最初は受け答えをしていたのですが、奥穂からジャンダルムだけを登り下ってきたと言う人が後から来て話を始めたので、それそしおに穂高岳山荘に向かって歩き始めました。
奥穂高岳から穂高山荘までは一部を除くと足だけで歩ける道でほっとしました。もう、手を使ってよじ登ったり下ったりすることもないだろうと思いました。
穂高山荘は水が他の山荘、山小屋よりも安いところで助かりました。
時刻はまだ午後2時とテントを張るには早いので、北穂高岳へと進みます。
垂直に近い岩場の登り。 |
岩と岩の間から岳沢が見えます。 |
岩の斜面の先に槍ヶ岳が見えました。 |
岩場をグンと下るとすぐに登りが待っています。 |
迫力のある岩のピークが連続して現れます。 |
間ノ岳の山頂。ただしこのときは地図を持っていなかったので具体的にどの位置なのかは不明でした。 |
間ノ岳の先に別の岩峰が現れました。奥穂高岳に至るまでこの繰り返しです。とにかく距離の稼げない道です。 |
岩と岩の間の小空間にテントを張った名残がありました。 |
遠目から見るととりつく島もない岸壁に見えたのですが、鎖場がもうけられていました。 |
天狗岳の山頂。 |
岩場のルートはすべてマーキングが施されています。マーキングを忠実にたどればさほどの危険はありません。 |
岩場の上り下りが多いのですが、ピークを経ないで巻いて行くところも多くあります。 |
岳沢を詰めてきた道との合流点にある山小屋跡。ここに避難所があると西穂-奥穂の歩きは相当に楽になるはずです。 |
分岐は乗越のようになっていて、笠ヶ岳も見ることが出来ます。 |
遠くから見るととりつく島もない岸壁も、近づくとマーキングが書かれていてしっかりとルートが確保されています。 |
正面の岸壁を巻いて背後の岩の切れ目を上るルートです。 |
ガイドに伴われて奥穂から西穂に向かう登山者2組とすれ違いました。ガイドと登山者はマッターホルンの様に命綱で結ばれていました。なるほど、西穂で聞いたガイド付き登山とはこのことかと納得しました。 |
ライチョウ。北アルプスに登ったら1度は会ってみたいと思っていたライチョウですが、人を恐れない鳥らしく、あちこちの山で見られました。北アルプスに限っては珍しくない鳥のようです。 |
GPSを持っているので位置は把握しているのですが、このあたりまで歩いてくると、この先どの程度の時間をかければ奥穂高岳に着くのかが、感覚としてわからなくなってきて、不安になってきます。 |
矢印の方向に向かって、岩を登ります。 |
たぶんジャンダルム。深い雲の中を歩いていたので自信がありません。 |
ジャンダルムから見た奥穂高岳(たぶん)。雲越しに人の姿が見えたのでほっとした瞬間です。 |
奥穂高岳の山頂が見えてきました。 |
奥穂の山頂には沢山の人がいて話しかけてきました。 |
北穂高岳
奥穂高岳から涸沢岳までは楽な道だったのですが、そこから先がなかなかの岩場の連続で、「また岩場か」とがっくりしてしまったのですが、西穂-奥穂に比べると楽なルートで、時間の割に直線距離が稼げないことと、深い雲で景観が楽しめないことを我慢すれば良い道でした。
ただ長く感じました。
特に北穂の南峰を巻く道を通ったときに、持参のハンディGPSが北穂高岳の山頂を示しているのに、実際の登山道はまだまだ先に伸びていて、いっこうに北穂高小屋に着きそうにありません。この区間が数時間にも感じました。
ようやく南陵の分岐につき、雲をすかしてカラフルなテントは数張り見えたのですが、北穂高山荘はまだこの先なので、このテント場は何だろうと考えました。
とりあえず北穂高小屋についてテントの受付を済ませると、先ほど見たテント場が北穂高岳のテント場と言うこと。水はもちろんトイレも山小屋まで来て澄ませてくださいと言われて、ちょっと驚きました。日があればともかく、夜になって気温が氷点下となるこの季節に、テント場から山小屋まで水を求めてやトイレのために歩いてくるのは危険ですらあります。
この日はよほどに体力を消耗したのか普段食べているライトミールだけでは物足りなくて、初めて山小屋で食べ物を買いました。
といっても100円の柿の種一袋ですが。
テント場に17:00頃に着き、テントを張り終えると、日が沈むまでのわずかな時間、周囲の山が夕日に染まるのを眺めていました。
山岳眺望に疎いわたしはこのときは見とれていた山の名前を知らなかったのですが、後で常念だけとわかりました。
奥穂高岳から穂高岳山荘へ至る岩の稜線。素直な道で岸壁歩きはほとんどありません。 | 穂高山荘で水を購入してから先に進みます。 |
涸沢岳。奥穂高岳から涸沢岳までの道は素直で足だけで歩けたので、この先はもう岩場はないだろうと安心してしまいました。 |
涸沢岳の山頂。 |
涸沢岳の岩場。 |
垂直に登るような岩場は少ないのですが、足だけでは登れないので両手両足を使って登ります。まだ岩場が続くのかと気持ちが萎えてきたあたりです。 |
西穂-奥穂の岩場に比べると高低差が少なく、斜度も緩やかなので、歩きやすいと言えば歩きやすい道でした。 |
眺望でもあればもう少し楽しめたのですが、昼前後から深い霧に覆われてしまい、景色は見られません。 |
ようやくたどり着いた南陵の分岐。テントが見えたのですが、北穂高小屋はまだ先でした。 |
分岐から一登りしたところにある北穂高小屋。ひどい混雑で驚きました。西穂-奥穂と奥穂-北穂の間ではほとんど登山者を見かけなかったので、この宿泊客たちはどのルートから来てどのルートを通るのだろうと思いました。 |
北穂高小屋のテント場。 |
夕暮れの常念岳。 |